2004.7.3 By.ゆみ


2004.4.26-29 

幻の百済李氏朝鮮の史跡を巡る旅日記



水原の華城(東北コンシンドン)



第3日目(4月28日) 1.水原華城



儒城温泉の朝、教会と儒城の街
ワールドカップ会場となった大田市の高層住宅ビル
そして雲の上に高くそびえる山が見える

 3日目の朝は、大田市の儒城温泉で明けました。
 ぐずつき気味だった空はすっかり晴れて、ホテルの窓からは、教会の尖塔が朝日に輝く街と、遠く雲の上にひときわ高くそびえる山(鶏竜山?)が美しく見えました。

 バスは京釜高速道路を北へ走り、水原市へ向かいます。
 高速沿いの景色で気になったのは、丘に点在する伝統的な墳墓の形です。
 土饅頭が二つ、その後に屏風のように低い塚が控えています。
 昨日見た武寧王陵は、この屏風のような塚と思われて盗掘を免れ、手前の陵墓の排水工事際、偶然発見されたと、ガイドさんから聞き、車窓からなるほどと思いつつ眺めていました。

 今のソウル、漢城に建国した百済は、475年高句麗に追われるように公州(熊津)へ移動し、538年扶余に遷都、そしてサビ城陥落3年後の663年白村江の戦いで滅亡、新羅に統一されました。

 それから高麗の時代を経て、1392年 李氏朝鮮は再びソウルを都として、五百年間支配します。
 今日は一日、その李氏朝鮮が残した代表的史跡、水原の華城と、ソウル市内の宮城や宗廟を見学します。

 やがて、ソウルの南40kmほどにある百万人の都市、水原市に着きました。
 ここには世界遺産に指定された18世紀末の壮大な「華城」が修復・復元されているのです。



自然の地形を沿って城壁がのびていく

屈折した城壁が美しい

東暗門:敵に見えない構造の通路

東暗門のアーチの上の曲線
軍事用なのにデザインにとてもこだわっているように見える



城壁にうがかれた射撃用の窓
 ソウル近郊の水原華城は、李氏朝鮮22代正祖王が、ヨーロッパ式の築城技術を取り入れ、石と煉瓦を組み合わせて築いた二百年前の城です。

 ガイドさんの説明によれば、正祖王は非業の死をとげた父親の霊をなぐさめようと、縁起の良い水原の花山に墓を移し、その祭礼のためしばしば行幸するうち、ソウルから水原に遷都することを決めたとのことです。
 正祖王の父荘献世子(のちの謚は思悼世子)の死とは、米びつに押し込められて絶命させられたという、熾烈な党争の中での悲惨な最期で、王はその父の無念の死を悼み、この築城は王の「孝」の精神の表れだったと、今も伝えられているようです。

 この城郭は1796年に完成、しかし、王の死により遷都は中止となり、城壁と門などが残され、華城と呼ばれるようになりました。

 創建当時の建築物は1950年からの朝鮮戦争で焼失しましたが、1975年から復元作業が行われ、現在では築城時の姿に戻って、3時間かければ城壁の上を一周できるそうです。
 
 世界遺産にも指定された華城、今回は、その東北の一部、東暗門から蒼竜門を見学しました。


城郭の外には水原第一教会の尖塔がそびえている
 

東将台(練武台)を望む
 城郭全体の長さは1周5.7km、東側に蒼竜門、西側に華西門、南側に八達門、北側に長安門などの4大門を作り、暗門4、水門2、敵台4、空心3、烽1、舗楼5、将台2、角楼4、砲楼5などの多様な構造物を適切な規模で配置しているなど、初期産業社会の軍事要塞として優れた工学的な技術が世界遺産として評価されたそうです。

 かつて、歴博の若い城郭研究家の千田嘉博氏の講演や城址探訪でお話をお聴きする機会が何回かありました。
 そのときの先生のお話では、(華城についての事例紹介はありませんでしたが、)世界の城も日本の城もそれぞれ別な発達をしながら、その出入り口の構造や防御の工夫の形態には、原理的に差がないとのことです。
 その意味では、この華城は中世以後の西洋と東洋の城のしくみと要素をすべて継承した城郭として、その姿を留めているように思います。
 
 また華城は、軍事上の設備の集大成であるとともに、王が墓参に際して滞在した行宮のほか、道路、大門、橋、商店街を配備し、貯水池をつくって屯田を経営するなど、新都市として計画的に建設された城郭都市でした。
 今もソウルよりずっと住みやすいらしく、高僧住宅や大きな天主教会が城外にそびえて、楼閣や門にカメラをむけると借景のように写ります。

 短い時間の見学でしたが、いつか、この城郭を一周し、また復元中の行宮なども見てみたいと思いました。


東北空心(コンシン)ドン内部
  
蒼竜門上の楼閣より

レンガで組んだ半月状の甕城が蒼竜門外側を巡る

片方だけ空けて出入りのルートを屈曲させた甕城(半円状の外枡形)
 城内から見た蒼竜門全景

参考HP:「逍遥の山」より「水原華城」 「Don panchoのホームページ」から「水原華城」